第1話

設計を開始した当初は、別荘なので条件が少ないし、思いきってやってやれ、という気分でした。スケッチを描き、模型をつくり、ああでもないこうでもないと試行錯誤し出来た案は、L字型の平面で、ななめ上から見るとハートの形の建物でした。 1階,2階とぐるぐる回れるようなループ空間をつくりたいと思ったのです。お施主さんに、お見せしたところ、たいそう気に入って下さいました。(実際の案が建った後も、お施主さんの妹さんは、名残惜しそうにしてました。(笑))基本から実施へと進み、構造も鉄骨としました。家具のディテールもなかなか面白く出来ました。見積もりをとってみると、予算より高く出てきました。場所が場所だけに鉄骨工事が思ったより高くつき、落としても追い付かず、木造の集成材とすることで、やっと予算内になりました。工務店と契約をし、敷地の雑草を取り除き、なわばり、です。(文字どおり、建物の平面のかたちにロープを張る。)このときに僕は、敷地の入れなかった奥にくぼ地があることと、敷地外の森がかなり敷地内に侵入し、建物をたてるスペースがそんなにないことを知ったのです。(恥ずかしながら)L字型は、広めの敷地にポンと置かれ、Lで囲まれた所にデッキを置くつもりでした。しかし、Lは敷地一杯に建ち、デッキは、くぼ地に半分かかるような感じでした。こんな良い場所で、なんで、こんなにせせこましい事をしてるんだあ、と自分に腹がたったんです。まず、お施主さんに、思った通りのことを伝えました。そして、計画を練り直したい、とお願いをしました。幸いにも、話をわかっていただき、1月で、考えます、と宣言をしてしまいました。長く待ってもらうわけには、いかないですから。その後の1月は濃密でした。どういった過程で、現実の別荘のかたちに落ち着いたかは、定かではありませんが、現場にも入った段階ですから、基本的なことは頭に入っていて、いかに、余計なものをそぎ落としていくか、という作業だったと思います。(第2話につづく)
第2話

作業の末、2間×9間の2階建ての木造と、はなれのようなお風呂場があり、その間がテラスになっている、というごくシンプルな姿が新鮮に見えました。敷地に対して自然に建ち、テラスや広間が周りの樹木に囲まれた、気持ちの良い場所になっていました。この時に、余計なものは要らないのだ、と実感したのです。取り巻く環境と建物の関係こそが、ここでは、とても重要だったのです。
ただ、もうひとつここで重要だったことは、余計なものを取り除いていった結果、全く新しいアイデアをそこにプラスすることができたことでした。
それが、つまり、メッシュで囲まれた半屋外空間なのです。

ガラス越しに、もしくは網戸越しに内部の人は外部と接している、というのが、現実の家の姿です。フルオープンでガラスが開きます!とか、はめ殺しの透明なガラスは外部と一体感を持てます!とか言っても結局住む人は、外部との間に境界をもうけています。その境界をもっと外に持っていき、空間にしてしまいたい、と思ったわけです。まわりからは、メッシュの空間は檻のようだ!と言われましたが、それは檻でなく、柔らかな浸透膜のようなものです。実際の表情や身体感覚は包まれるような感じです。メッシュが全然開閉できなくて良くない、とも言われました。しかし、開閉できる装置のようなものを目指したものではありません。あくまで、その場所は、網戸の網だけ、もしくはガラス窓のガラスだけが空間になったものなのです。