新しくするのでなく、受け継ぐこと

この家は、2階部分の焼失によって始まりました。物理的ダメージもさることながら、それによる家族の心理的ダメージが大きく、私の友人から相談を受けたときには、そこから這い上がろうとする家族の気持ちが伝わってきました。私の大々的な増改築案に対してお施主さん一家が、しりごみせず、むしろ賛同してくれたことに、”家”というものの立て直しにかける一家の意気込みを感じずにはいられませんでした。そこに見たのは、世に謳われるような崩壊した家族ではなく、一家が苦労して作り上げた”家族”の姿でした。プランを練りつつ新築をせずに増改築としたのも、その家に家族の姿が色濃く反映されていたからに他ありません。作り上げてきたものを無にするのではなく、壊れた部分を修正しながら生まれ変わり続けるという、一家の強さを家も持つべきだろうと思われたのでした。

1階は水浸し。2階は腰から上がなくなった状況。内装は全て新しくしなければならなりません。しかし使える構造体は残すということにこだわり続けました。そして見慣れた瓦屋根も大部分残すことにしました。その過程で考えたのは、家の内部の空間の大きさについてです。構造体を残す限り、1階部分は天井高や平面的大きさが以前と変わらず、そこに居るときの身体感覚は昔とさほど変わらないはずです。そこに”家”としての延長線を見い出そうとしました。そして2階は、”家”としての延長と共に、傷跡を消すことが重要でしたので、階段の位置を変更し、天井高を極端に低くすることで、2階が1階部分のロフトのように感じるような、一体感のある空間にしました。それは落ち着きを持てる寝室となります。次に明るさについて。典型的な日本家屋であった元の家では、プラン上の問題もあり、どの部屋も薄暗かったのです。光が充満することは、新しい空気を作り上げることになるだろうと思われました。そして、余計なものをなくし、極力、素の状態に近づけ、”家”の素地作りに専念しました。そして、最終的には、一家が色付けをし、新しい”家”を作っていくことによって、はじめて”家”が生まれ変わっていくのです。

八木敦司