この家が実際どのように出来ているかは、写真や図面を見ていただくとして、 どうしてこのような計画となったか 実際の出来たものについて この2点についてお話したいと思います。

■ 構想  この住宅は、セカンドハウスまたは海の家として計画されたものです。お施主さんは、1つ隣の駅に住んでいます。ここでは、菜園をつくり、料理を楽しむようです。そして、息子さん夫婦がウインドサーフィンをやるための拠点ともなります。娘さん夫婦とその子供たちは、海水浴やバーベキュー、釣りをするそうです。家族皆の海の家、といったところでしょうか。  この家は施主さんの住んでいるところから近く、使い方も休みに利用する別 荘よりも身近ですので、<身に近い>住宅といえると思います。  <身に近い>という意識で構想を練っていると、建築というものでなく、家具やインダストリー、鞄や衣服のようなもののほうが、しっくりきました。当初のスタディーを振り返りますと、トランクやコンテナ、スケルトンのインダストリーという印象のものが多く見受けられます。  建築以外のそういった<もの>たちが持つ良さや特徴を出すことが<身の近さ>につながるのではないかと思い、<もの>をつくるプロセスから始めることにしました。建築におきかえると、構造も含んだ構法から始める、という意味です。

■ 外形  予算から考えますと、当初から10坪から15坪ほどの規模が想定されました。 小さい家なので、階段をつくって2階建てにするのも無駄が多く、土地自体は50坪ほどありましたので、平屋建ての計画とすることにしました。いろいろとスタディーしたあげく、土地の形状に素直な細長型の平屋として、それと平行に南側に庭がとれ、駐車スペースがとれる計画としました。  細長型の平屋の外形として、単純なフレームみたいなものがトンネル状に並んでいる、というきわめてノーマルな姿をイメージして、それを、何を使って、どのようにつくるかを検討することにしました。

■ 構造  鉄骨は強度があり部材も小さく出来るのでいいのですが、手軽さにかけるので、今回は木でやりたいと考えました。在来構法やツーバイフォー、集成材の類は建築の形式としてあまりに確立されすぎているので、避けていました。構造設計家の腰原氏に相談すると、フレームを合板でつくることが可能ではないか、とのアイデアがでてきました。  合板は手軽であり、ホームセンターのようなところで簡単に手に入れることができます。そして、加工が容易にできます。建築と同様に家具の素材としても使われます。そんな<身の近さ>がぴったりでした。

■ 構法  <もの>のもつ身近さ、そして合板という手軽な材料、ということから発想をひろげて、この家をセルフビルド型の家にできないだろうか、と考えました。  あらかじめ作ってあるキットをもとにセルフビルドできるキットハウス。(キットハウスというのは、部材がキットになっていて、それを買って自分でつくるという種類のものです。ログハウスが代表としてあります。)  どこでも使うことができるようなキットを前提とするということが、<もの>をつくるプロセスそのものでしたし、セルフビルド型の家という、身の近さはうってつけでした。  そこからは、より合理的に構造と構法を一体化し、簡単に理解できること、人が2人で組み立てられること、というふだんは意識しない前提条件をもとにデザインをすすめました。  そうすることで、染みついてしまった建築の細部の考え方から自由になれて、<ものづくり>に少しでも近づけるのではないか、と思ってのことです。

■ キット このキットのシステムを使えば、平面の長さはどんどん長くできるし、L字型や、H型、U型の平面 型を考えることもできます。規模と敷地の形状に応じて、プランを修正すればよい、と考えます。そして、外壁、屋根、室内の合板種類、色などはつくり手兼住み手の趣向に応じて変えることができます。    製品として捉えると、ロの字フレームは今の一体型でも十分軽くてよいのですが、運送を考えると分割して現場でロの字に組み立てる方法もあります。パネルは、内壁も外壁も一体にして簡略化しつつ軽量 化できれば、現場での作業がぐっと少なくなります。設備と電気については、パネル個々にそのスペースをとると、コストは上がりますが、自由度が高まります。小さなことも含めると状況に応じての改良の余地はまだまだあります。  つくり終えた感想としては、手軽になってはいてもやはり大変だった、というところです。初めての構法ということで、想像以上につくり手が構法を理解するのが難しかったようです。元となるキットのシステムをより分かりやすくする必要がありそうです。

■ 完成型  <キットハウス>とはいえ、出来上がったものが工業製品のようなものかというとそうではありません。基本はもちろん、今までお話ししてきたことの中にあり、基本構造と構法のシステムはキットとして考えられています。ですが、それを製品として成立させるためには、メーカーの協力や販売戦略なども含めて、トータルに物事を考えて行かねばなりません。そういう道もありましたが、今回は元々の依頼が、そのような製品化とはまったく関係がないものですし、完成までに時間がかかりすぎてしまいます。また、建物としての合理性を追求し、それだけに終わってしまうことは、したくはありませんでした。なぜなら、合理的に考えられたキットを使い、それで何が実現できるか、その環境や施主さんの条件を照らし合わせて、何を改良し、何を足していくのか、そこまで到達することによって、初めて<もの>が持つ面 白みや良さが浮かび上がってくるのではないか、と思ったからです。  プレファブやセルフビルドを終始一貫して追求したわけではないのです。<もの>の、製作プロセスを含んだ、合理的でありながら自由な、最終型としての美しさを追求していたのだと思います。

■ <もの>を<つくる>  もともとは、<もの>をつくるように建築をつくりたい、との思いで出発した計画でしたが、新しいかたちのキットハウスにしようと思い至ったとき、無意識に自分自身が求めていたものがはっきりしました。  昨今、住宅の性能についての考え方が厳しくなってきました。そのために家はどんどん商品化しています。すべてが完璧になり、スペックが上がっています。それは良いことだと思いますが、それだけではスペックが上がっただけで、真に今の時代に対応しているとは言えないような気がします。  日本においても、伊東豊雄さんや難波和彦さんのアルミの家や坂茂さんの紙管の建築など新しい素材、構造、構法を用いて、セルフビルドも射程においた住宅がありますが、そのような挑戦をわたしたちがどんどんして、家の中の<もの>が凄いスピードで変わっているこの時代に対して、家という<もの>を<つくる>幅を広げていくことが必要とされていると感じています。                                                   八木敦司