増改築M邸----M-house 1997

 

『この家でかんがえたこと』

 

増改築というモード(新建築住宅特集97/06掲載時の設計主旨文です。)

新築と増改築は別のモードにある。増改築にはその建物がもっているある種の”様態”が存在している。それは、機能、構造、材料ひいては行為までもの構成要素によって作りだされている時間的、空間的状態である。 新築はゼロの状態からある様態を作り出すことであるが、既存物が在る計画の場合、元の様態から次の様態への移行の方法によってその表現されるものは違ってくる。そこに断裂が生じれば既存物を使用した新築であり、様態が変わらないのであればリフォームであると言うことができる。そのとき、増改築というモードは、ある連続性に支えられた様態の移行を伴う計画だと捉えられる。 増改築というモードが新築と別の次元での創造行為として認識されるとすれば、既得の様態を再評価し、それに対する更新、付加、制御といった方法の有効性を探ることにより複合的な新しい様態をつくりだすという過程を経たとき初めて可能になるだろう。
大阪みなみから一時間のところ狭山ニュータウンにあるこの家は、築25年の在来木造の増改築である。区画が大きくのびのびとした空間の中に、閉塞感のある、部屋ごとに分割された家が置かれていた。この計画では、家全体をひとつの大きな空間と捉え、様々な樹々の植えられた庭や大きくひらけた空に解放されている状態をつくりだそうとした。
既存部分として2階床より下の主構造、水廻りのコアとその上部を覆う瓦屋根、東側の和室2つのウイングが残された。
機能、構造からの条件により最低限の壁を確保し、それ以外の部分をガラスや建具により柔らかく囲いとる・・・元の柱を埋木し、取り除いた梁を階段に転化する・・・既存部分の仕上げに構造用の合板を張り付けてゆき1階には黒、2階には白を染める・・・2階の床から上は、その大きさを表わすために白くし、天井は低く抑える・・・陽のはいる南西側にキッチンとその収納を、吹き抜けを軸としてシナベニヤの生活収納を、そして小さな単位 の収納を必要な場所に、それぞれ単純なボックスとして配する・・・そして立ち上がった空間は、この一連の単純な過程において、連続性と移行を実現すべく、期待される効果 を選択していった結果である。

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ATSUSHI YAGI ARCHITECTS & ASSOCIATES